第一部
ツァラトゥストラの序章

ツァラトゥストラは、三十歳になった時、そのふるさとを去り、ふるさとの湖を捨てて、
山奥に入った。
そこで自らの知恵を愛し、孤独を楽しんで、十年の後も倦むことを知らなかった。
しかしついに彼の心の変わる時が来た。
ーある朝、ツァラトゥストラはあかつきと共に起き、太陽を迎えて立ち、次のように太陽に語りかけた。
 「偉大なる天体よ!もしあなたの光を浴びるもの達がいなかったら、あなたは果たして幸福と言えるだろうか!
 この十年というもの、あなたは私の洞穴をさしてのぼってきてくれた。
もしわたしと、私の鷲と蛇とがそこにいなかったら、あなたは自分の光にも、この道筋にも飽きてしまったことだろう。

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ツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫 青 639-2)