江川達也はもともと才能あふれる男で、私のアシスタントは半年ほどやっただけだった。
アシスタントというよりお客さんだった。
「お前の持っている力はすでに俺のところで無駄な時間を過ごすにはもったいない。すぐにデビューしろよ」
そう言ってデビュー先をあたった。
「モーニング」が引き受けた。
 そのときも、わがままが出てしまった。「巻頭カラー連載で始めたいが『モーニング』の編集者の感覚だと江川のおもしろさはわからない。だから最初は一切口を出すな」という条件を提示。
ところがデビュー作『BE FREE!』の一回目を読んだが、いまひとつピンとこない。
江川君には漫画は算数で描けよとよく言っていた。
「全然算数になってねえじゃねえか」
「いや、これは算数です」
「……」
私は意地をはってアドバイスした。
「ずーっと最後までセックスをし続けるような漫画を描けないか」
すると、「えーっ、じゃあオチはどうするんですか?」と困った顔をする。
「夢だった、でいいじゃねえか」
「漫画ってのは人気取ってなんぼのもんじゃ!」
「やってみます」

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天然まんが家

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