ニートちゃん

僕の名前は橋下某
それはホームレスが身動きが取れない雨の日の出来事。その日は霧雨でした
自宅の橋の下の段ボールハウスで
「空から美少女が降ってこないかなぁ」と念じてみたら
本当に降ってきた。
ぼすぅ。ブラブラーン。ブンブラリーン。
回ってますそして藻掻いてます
僕は決定的瞬間を目にしたものの、マイ処世術であるところの
見なかったふりを決め込みました。
でも、中々湿った空気を伝わる薄気味悪い魔界重低音サウンドが止まないので、
動きが小さくなった頃に仕方なく、本当に仕方なしにそれをロープから解放してやったのです。
「何もこんなところでバンジージャンプをって首!」
最近のバンジージャンプは首にロープを巻いて飛び込む事によって、よりその勇気を示すとか聞いた事がありません。
ですが、僕はそれ以上の詮索をカットして、舌とか下とか酷い事になっているその仏さんをロープから解放してあげたのです。
地面に降ろすと、
手を合わせて、川に捨て、流そうと僕が決断したその時、
「動いてる」
信じられない事にその子は(女の子でした)
胸をかすかに上下させ、呼吸しているじゃないですか。
「こいつ不死身かよ」ほおをぴちぴちと張りながら。
死に損ないが一番可哀想だよなと。
この子のこの後の人生について、僕が余計な心配や同情をしていると。
 その子は「うぅん」と意識を取り戻した様子。
ラッキーです。このまま意識が戻らなかったらどうしようかと考え始めたその刹那でしたから。
「おっ、生きてますかーっ」彼女の顔の前で手のひらを振ってみる。
ぱちりと、目が開いたものの、未だ焦点が定まっていない様子。
「ここは天国じゃないよ」僕がそう言うと。
「私はどこ」
「君が飛んだ橋の下」そう、橋の上と下を指さして彼女に説明を試みました。
彼女が空をそれは熱心に見つめ続けたので、何が見えるのかと根負けして見上げてみますと、なるほど
彼女の荷物が在るのですね。
僕はひとっ走り橋の上まで行って彼女の靴と鞄と封筒に入った遺書を回収し、橋の下にとって返しました。
 霧雨は止む気配もなく降り続けており、彼女も濡れてしまうでしょう。
取りあえず僕は彼女を引きずり我が家というか、段ボールハウスへと彼女を収容してしまいましたよ、あーあ。
「君の名前は?」
「……。」返事は未だ無理なのかな。
鞄を調べて彼女の名前らしき見たいものを確認。
「白鳥明日香さん?」
「そうかも知れない」
「そうなんだよ。確かにちょっと偽名っぽいかなぁとは思うけど」
「だったら私の事はニートちゃんとお呼びください」
僕は一瞬頭の中が真っ白にされそうにな、でも、すぐに体制を立て直し。
「何でニートちゃん?」彼女にそう質問をぶつけた。
「飛んだ時に声が聞こえたから」
あまり関わり合いにならない方が良さそうだなと思いつつも、ここで話を切るのも不自然だと思って、
「なんて声が聞こえたの?」
「あなたはこれから生まれ変わってニートちゃんになります」
「うぅん」
「なって、世のニートを救ってあげるのよ」
そう熱弁をふるった彼女に対して、僕は落ち着きをなくし、否!いらついてさえいた。
っていうか、ちょっと機嫌を悪くしたんだよ、なぜなら
「あのぅ、僕はニートなんだよね」自分を指さしそう切り出す。
彼女は、あーーっという表情で僕を指さすと、自分の顔に書いてある通りの言葉を発した。
「だったら、私が救って差し上げます」と。
 僕は非常に困ってしまった。
だって、僕は彼女を今多分救ってしまったから。
橋から人間てるてる坊主(女の子だから坊主じゃないけどてるてる坊主みたいなワンピースを彼女は着ていた)
を、嫌々ではありながらも、生死は問わなかったけれどロープから解放してしまったのですから。
それは、つまりだから。
「勝手に救っておいて、人に救われるのを拒否しませんよね」
「それとこれとは」
「一緒です!」
彼女はここに来て俄然押しの強さを見せた。
さっきまで死にかけていたとはとても思えません。