こう言うと、読者の皆さんは驚かれるかも知れないが、哲学にとって、その結論(つまり思想)に賛成出来るかいなかは、実はどうでもよいことなのである。
重要なことはむしろ、問題をその神髄において共有出来るか否か、にある。
優れた哲学者とは、すでに知られている問題に、新しい答えを出した人ではない。
誰もが人生において突き当たる問題に、ある解答を与えた人ではない。
これまで誰も、問題があることに気付かなかった領域に、実は問題があることを最初に発見し、最初にそれにこだわり続けた人なのである。
このことはどんなに強調してもし過ぎることはない。
なぜなら、すべての誤解は、哲学者の仕事を既成の問題に対する解答と見なすところから始まるからである。

p.009 はじめに

ウィトゲンシュタイン入門 (ちくま新書)

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