まめぞうさんの質問にもう一度立ち返ってみよう。「クリエイターなんて運次第じゃないか」という言葉は、「才能があっても認められない不条理をどう思うか」ということだったのかもしれない。

確かにこれまでは、そういうことがあった。作家でも漫画家でも、処女作の単行本を出す、というチャンスを獲得するまでにものすごい時間と労力を費やし、しかも運にも頼らなくてはいけなかった。

出版社の経営状況とか、担当した編集者の虫のいどころとか、作家本人とは関係のないファクターで、結局デビュー出来なかった例がいくらでもあると思う。
不運が重なって機を逸した人の怨念が、世界には満ちている。そういう人達の愚痴はゴールデン街にも2ちゃんねるにもあふれかえっている。

しかし、もう、才能はあるのに運がなかった、と言ういい訳は、通用しなくなる。

自信があるなら、四の五の言わずにどんどん作品を創ればいい。文章を書いてもよし、楽器を弾いてもよし、カメラを担いで映像を撮ってもよし。そして、さっさと公開してしまえばいいのである。

どんな作品でも、いまなら、ネットが展示場になるのだから。

その作品のインパクトの絶対値が大きければ、網の目のように発達したサイバースペースの中で話題は拡がり、遠からず必ず評価されるはずだ。

出版社に持ち込んだりコンテストに優勝したりしなくても、作品の発表が出来るようになった。これはとても大きいことだ。

ひきこもったままで小説を書き続け、人気を得て、そして出版者の目にもとまって、ひきこもったままで作家になる。そういう例もいまはある。

P.50~52/「ひらきこもり」のすすめ―デジタル時代の仕事論 (講談社現代新書)