■
大嘘である。
彼はまだ、デビューもままならない
アマチュアであった。大学を卒業後、漫画家を志した彼は、
定職に就かず親の金で生活し(漫画を描く時間が無くなる)
プロの漫画家に師事する事もなく
(自分の作風に影響が出るといけない)
同人活動なども避けて通り
(彼はオタクと呼ばれる人種を酷く憎んでいた)
ひたすら一人で漫画を描き続けていたが、そののぞみは容易に実らず
時を虚しく空費したまま、17年の歳月を刻もうとしていた。
p.30
17年の歳月は彼の中の尊大なる
自尊心を肥え太らせるのに十分な時間であった。
いつからか彼は「漫画を描く」喜びよりも、「漫画家になって周囲にもてはやされる自分」を
夢想する喜びに日がな一日、浸るようになっていた。
本来、漫画のアイデアを考える為に使われるべきであった彼の脳細胞は
その夢想と現実の間の埋まらない溝を
埋める為の理論武装にひたすら
費やされていくのであった。
p.32
- 作者: 唐沢なをき
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2005/11
- メディア: コミック
- 購入: 4人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (56件) を見る