クローンを食べないで

 ある日、哲子は地上から人間がやってくると聞き、サバンナでの捜索を一時中断して、地上からやってくる人が通る道に行く事にした。到着した道の沿道で哲子が待機していると、まもなく一行はやってきた。「あっ先輩じゃないですか」「そこに居るのはまさか、ちょっと哲子のクローン?」先輩がおかしな事を言いながら急いでここにやってきた。
 「何言ってるんですか私は人間ですよ」「あなたは自分を人間だと思っているのね、哲子ちゃん」「はい?」先輩は私のカオを両手で挟み込んで強引に向き合わせると、周りにいるクローンに聞いた。「この哲子は何人目?」険しい表情でそう聞く先輩に対して、横にいたイクルミクローンは少し考えた後「三人目か四人目かな」なんて飛んでもない事を口走る。「ちょっと、あんた何を言って」私は訳がわからない。でも、顔を先輩につかまれていて動けない。すると今度はみかかクローンが「一人目はワニにやられて、二人目はライオンに、三人目は土砂崩れで死んだから、四人目じゃないか?」えっあれは夢の話じゃなかったの!?
 「まぁ、良かったじゃないか、無事で」先輩が笑顔でぽんと私の肩を叩く。無事なのか?「体に害はないんでしょうか」私がそう聞くと、先輩は私をジロジロと見たり、私の腕をつかんであげさせたり見たりして言った。「うん、別に問題ないんじゃない?もし問題があっても、新しい体に換えればいいんだし」「そんなぁ」私はブーたれる、当たり前ジャマイカ。「もう、これでも食べてなさい」先輩はそういうと、ゴソゴソポケットをまさぐり、私にえぐいキノコを差しだした。「この毒キノコは何ですか?」私がおそるおそる聞くと。「毒キノコじゃないわよ。1upキノコ」「はい?」「それを食べると、哲子ちゃんが一人増えるの」なるほど。「危なかったわよ、あんた残機1になってるだよ?」私が試しにキノコを丸呑みすると。ピコピコリリ♪どこからか音が鳴って、私は1upした。

 「んで、先輩は何しに来たの?」私がそう聞くと。「あんたこそ何でここに居るのよ」と質問で返された。私が見あたらなくなったクローンの捜索のために東陽サバンナに来た事を話すと、先輩は「あんたも、クローンのために物好きだな」と呆れた。
 「で、先輩は何しに来たのさ」私が聞くと今度は「いやね、セキュリティーがネズミが紛れ込んだって言うもんだからさ、様子見にわざわざやってきた訳」「へぇ、ご苦労様ですね」私がそういうと。笑顔でひっぱたかれた。「何すんのさっ!」「いや、侵入者を排除っしょ」あぁ〜。先輩が私を侵入者と認識した所為でしょうか、今まで友好的だったクローン達にガシッと私は捕まってしまい、そのまま連行されたのでした。

 パチパチ、ドコドンドコ。これが何の音か説明するよ。私は十字架に縛り付けられ、下には低温たき火が、その周りを輪になって踊るイクルミちゃんクローン達。
 「ちょっと、私食べられちゃうんですか?美味しくないですよ」私が半泣きしながらそういうと。「あら?命乞い?」意地悪く先輩がそう言った。「でも、みかかの人達あれ食べたいでしょ?」周りでクールにしているクローンに先輩がそう聞くと「いや、正直あまり食べたくないですね」なんて言う。ありがとー。「乳ばっかりでっかくて頭空っぽそう」なんていう。「ちょっと待って脳みそ食べるの〜」「サルは脳みそが一番美味しい」真顔で言わないで怖いから!
 「ちょっと待ってください、私は美味しくない上に、悪い病気なんです!」「病気って何よ」先輩が容赦なく聞いてくる。「えっと、ちょっと便秘気味で……」「内臓は食べないよ」先輩が平然とそう大声で言ったのが私の最後の記憶。「ギャー。あちぃ〜」
 私が飛び起きると、そこはベッドの上だった、体中汗だくで、酷い夢を見た気がする。横に居た、イクルミナースがにっこりと微笑んでこう言った。「五人目〜」私の頭から血の気が引いていく。機械仕掛けのように首をひねって、ナースにこう聞くのが精一杯だった。「食べられたの?」私がそう聞くと、イクルミナースは笑ったまま何も言わない。私がそのまま答えを待ち見つめていると、ぺろりと舌なめずりしやがった!「美味しかったですか?」「とっても」どの部位が美味だったか聞くのは今度にするよ。